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よくあるご質問

一般編

炭素繊維はどこで入手できますか?

  • 日本化学繊維協会 炭素繊維協会委員会 (以下、炭素繊維協会)会員会社へ直接お問合せください。
    ※下記リンク先から、会員各社のホームページをご覧いただけます。
    http://www.carbonfiber.gr.jp/aboutus/member.html

炭素繊維を使用した製品を輸出したいのですが?

  • 炭素繊維製品、および、その設計・製造又は使用に係る技術には、輸出貿易管理令や外国為替令に該当するもの、又はその他安全保障輸出管理対象として政府が定めた貨物・技術に該当するものがあります。
    上記に該当する製品、および、技術を輸出、または、非居住者に提供するにあたっては、外為法等関係法令、通達等に従い経済産業大臣の輸出許可、または、役務取引許可の取得等必要な手続きを行って頂く必要があります。
    詳細は経済産業省 安全保障貿易管理のホームページをご参照ください。
    http://www.meti.go.jp/policy/anpo/

炭素繊維の統計情報はありますか?

  • 下記リンク先に出荷統計情報を掲載していますのでご参照ください。

    炭素繊維出荷統計
    http://www.carbonfiber.gr.jp/aboutus/stat/index.html
    上記の他に、経済産業省生産動態統計でも、炭素繊維の生産、出荷、在庫のデータを確認することができます。

炭素繊維の市場予測に関する資料はありますか?

  • 炭素繊維協会が毎年開催している複合材料セミナーにおいて、会員会社が市場見通しを発表することがあります。ご参照ください。

炭素繊維協会ホームページ上の画像を引用することはできますか?

  • 炭素繊維協会ホームページ上の画像は原則転載不可となっており、ご使用いただけません。ただし会員会社が版権を有する一部の画像で、許可制で使用いただけるものもありますので、まずは下記リンク先の「お問合せ」欄に、使用目的、希望画像、掲載先の連絡とともにご相談ください。
    http://www.carbonfiber.gr.jp/contact/index.html

技術編

炭素繊維は、なぜ軽くて強いのですか?

  • 炭素繊維が軽いのは、原子量の小さい炭素原子でできていること、黒鉛結晶構造(ベンゼン環が縮合した六角網平面が積み重なった構造)をしており、炭素原子間の隙間が大きいためです。炭素繊維が強いのは、黒鉛結晶構造の網平面方向の強度が反映されたためです。

    <炭素繊維が軽い理由>
    物質の重さは,密度(g/cm3)によって表されます。密度は物質を構成する原子の重さ(原子量)とその原子がどのように配列しているか(結晶系)などによって決まります。例えば、身近にある金属の原子量は、アルミニウム26.98、鉄55.85、金196.97です。一方、炭素の原子量は12.01と金属原子と比べ、1/2~1/10以下です。

    黒鉛の結晶構造
    黒鉛の結構造

    同じ炭素原子からできている素材でも結晶構造によって密度が異なります。ダイヤモンドの密度は3.51g/cm3、黒鉛の密度は2.26g/cm3 です。これは炭素原子の配列の仕方により炭素原子間の距離が異なるためで、ダイヤモンドに比べ黒鉛は、結晶の隙間が大きいためです。炭素繊維は原子量が小さく、炭素原子の隙間の多い配列によって構成されているため,金属と比べて軽いのです。

    <炭素繊維が強い理由>
    黒鉛結晶は、ベンゼン環が縮合した六角網平面が積み重なった構造をしています。積み重なり方向の結合は、分子間力という非常に弱い力なので簡単に剥がれてしまいます。 一方、六角網平面内での炭素原子は、3方向の炭素原子と互いに強固な共有結合でつながれているため、網平面方向の引っ張り強度が非常に強いことがおわかりいただけると思います。(ダイヤモンドが硬いのは全ての炭素原子が共有結合のみで結びついているためです。)

炭素繊維と他の炭素材料(木炭、黒鉛)との違いを教えてください。

  • 炭素繊維も木炭も同じ炭素材料の仲間です。その結晶構造も同じ六角網平面(グラファイト構造)をもっていますが、その構造の規則性や配列などが著しく異なります。炭素繊維では、素原子が繊維方向に規則正しくならんだ網目構造をもち複数のグラファイト構造の層が何段も重なり絡みあっています。一方、木炭では、このグラファイト構造が無定形で規則性も少なく強固な絡みあいも少ないため壊れやすく、構造の強度も弱くなります。同じような仲間に黒鉛がありますが、これは規則的なグラファイト構造が大きく発達した材料を言いますが、中国やインドなどでは天然にも採取できることで知られています。 黒鉛も軟らかく滑り易いことはご存知の通りです。


    ※画像をクリックすると拡大表示されます。


    図は、炭素繊維が炭素化・黒鉛化工程での処理条件下でグラファイト構造が成長する過程をを描いたものです。高温処理と延伸によってグラファイト構造が繊維軸方向に沿って規則正しく配向していることがわかります。
    (Source: A. R. Bunsell, Fibre Reinforcements for Composite Materials, Amsterdam, The Netherlands: Elsevier Science Publishers B.V., 1988, p. 120.)
    出典「炭素化工学の基礎」著者:大谷杉郎、真田雄三(昭和55年11月20発行)

炭素繊維は、何からつくられるのですか?

  • 衣料用のセーターや毛布に使用されるアクリル繊維や石油の重質成分や石炭の乾留で得られるコールタールの仲間などを原料としてつくられています。
    詳しくは、「炭素繊維はこうしてつくられる」を参照してください。

PAN系炭素繊維とピッチ系炭素繊維について、その性質や用途について、主な違いを説明してください。

  • PAN系炭素繊維は、集束本数の違いによってレギュラートウ(スモールトウ)とラージトウに分類されます。また、引張弾性率に応じて、汎用タイプ、中弾性タイプ、高弾性タイプに分類されます。
  • 表 PAN系炭素繊維の集束本数別分類と特徴

      集束本数 密度(g/cm3) 直径(μm) 特徴 主な用途
    レギュラートウ
    (スモールトウ)
    1~24K 1.74~1.95 5~7

    高比強度
    高比弾性

    航空機
    スポーツ・レジャー

    ラージトウ 40K以上 比較的安価 一般産業分野

    表 PAN系炭素繊維の引張弾性率別分類

      引張弾性率(GPa)
    汎用タイプ(HT) ~240
    中弾性タイプ(IM) 241~300
    高弾性タイプ(HM) 350~

    ピッチ系炭素繊維は、紡糸法の違いにより長繊維タイプと短繊維タイプがあり、原料ピッチの違いにより、等方性(難黒鉛化性)と異方性(易黒鉛化性)があります。

        繊維直径(µm) 密度(g/cm3) 引張強さ(MPa) 引張弾性(GPa) 特徴
    等方性 炭素質 12~18 1.63 720 32 軽量、耐薬品性、耐熱性、摺動性
    黒鉛質 12~15 1.58 600 30


    一方、異方性ピッチ系炭素繊維はメソフェーズピッチ系炭素繊維とも呼ばれ、PAN系では得られない幅広い引張弾性率を有します。
      収束本数

    繊維直径(µm)

    密度(g/cm3) 引張強さ(MPa) 引張弾性(GPa) 主な用途
    異方性 1K、2K、3K、6K、12K、16K 7~10 1.7~2.2 3,600 6~935

    幅広い引張弾性率

    産業分野、スポーツ・レジャー分野

    詳しくは、「炭素繊維の種類と用途(https://www.carbonfiber.gr.jp/material/usage.html)」を参照ください。

炭素繊維はなぜ電気や熱を良く伝えるのですか?

  • 炭素繊維は黒鉛の結晶構造を基本構造とした繊維です。Q1の黒鉛の結晶構造図をご覧ください。芳香族を構成する六員環(ベンゼン核)を取り巻く電子はπ電子と呼ばれています。π電子はベンゼン核を構成する炭素のどれかに属するのではなく、自由に動いています。このベンゼン核が縮合したのが六角網平面であるため、この面内であればπ電子はどこにでも移動することができます。言い換えれば、この構造に対して電位差を与えればその間で電子は流れることになり、「電気が流れる」ことになります。すなわち黒鉛結晶構造が規則的であるほど電気の良導体と言えます。

    一方、熱は結晶中の原子(格子)が振動することによって伝えられます。黒鉛結晶構造の面のように整然とした構造の場合にはその面に沿った方向に、振動がよく伝わります。炭素繊維が熱の良導体であるのは黒鉛結晶構造の面に沿った格子振動によるものです。なお木炭などの、結晶の発達していないものは格子振動が弱く、また欠陥が多いため、電気と同じく熱の伝達が欠陥で阻害されると考えられます。

ピッチ系炭素繊維の分類呼称がいろいろありますが。

  • 原料ピッチは、偏光顕微鏡で観察した場合に、光学的に無秩序で偏向を示さない等方性ピッチと、構成分子が液晶状に配列し、光学的異方性を示す異方性ピッチ(メソフェーズピッチ)に分けられます。炭素繊維は、炭素六角網面が規則正しく積み重なった黒鉛結晶構造を頂点として、その構造の乱れ、空隙・欠陥の存在分だけ機械特性、電気および熱の伝導性が低下することは別のFAQでも言及しています。
    さて、この構造の規則性は、原料ピッチの構成分子配列の規則性を色濃く反映するため、異方性ピッチから製造された炭素繊維は等方性ピッチから製造された炭素繊維より、機械特性に優れ、電気および熱の伝導性が高くなります。原料ピッチのこの光学的呼称の違いをピッチ系炭素繊維の分類に持ち込んだ呼び方が最も良く使われています。他の呼称も含め下表にまとめました。

    機能面 原料由来
    高機能 HPCF
    High Performance Carbon Fiber
    異方性ピッチ系 メソフェーズ・ピッチ系
    汎用 GPCF
    General Purpose Carbon Fiber
    等方性ピッチ系 アイソトロピック・ピッチ系

炭素繊維は炭素で出来ていますが燃えやすくないのですか?

  • 炭素繊維は規則正しい網目構造をもちますが、木炭は、規則性も少なく強固な絡みあいも少ないため壊れやすい構造になっています。 炭素は酸素と反応して二酸化炭素になります(C+O2→CO2)。この化学反応を酸化反応といい、或る温度(酸化開始温度)を超えると急激に反応が進行します。この反応は発熱を伴うため、発熱して温度が上がると、さらに酸化反応は起きやすくなります。燃焼とは、(酸化反応→発熱→温度上昇→酸化反応性高)の循環を断ち切ることができず、酸化反応が激烈に起きている状態を言います。

    さて上記の酸化反応の程度は①温度、②炭素の供給、③空気の供給に依存します。①の例としては放水による消火が挙げられます。水の蒸発潜熱により冷却して酸化反応を抑えることを意味します。毛布やシーツで炎を包み込む消火方法が③の説明になります。空気中の酸素を遮断して酸化反応を抑えます。そして結晶構造による燃焼性の違いは、②の因子で説明されます。

    規則的な配列で炭素原子同士の結びつきの強い炭素繊維は燃えにくく、不規則な構造で空気が入る隙間の多い木炭は比較的燃えやすいことになります。また炭素繊維に限って言えば構造が規則的であればあるほど燃えにくいことになります。

炭素繊維協会でのリサイクル活動について教えてください。

  • 炭素繊維協会における炭素繊維リサイクルに関する活動は、2003年~2012年に行われ、現在は活動を終了しています。 会員各社の炭素繊維リサイクルに関する取り組みについては以下へお問い合わせください。

    帝人株式会社 コーポレートコミュニケーション部 TEL 03-3506-4055
    株式会社三菱ケミカルホールディングス 広報・IR室 TEL 03-6748-7140
    東レ株式会社 広報室 TEL 03-3245-5179

安全編

炭素繊維の安全性について、説明してください。

  • 一般的な炭素繊維の性状と取り扱い上の注意点について、次項以降に示します。
    なお、各社毎の具体的炭素繊維製品の取り扱いについては、直接各メーカーにお問い合せください。

炭素繊維の性状について

  • (1) 物理的及び化学的性質
    外観、形状、色等: 【技術編】 Q&A 4に詳しく説明していますのでご参照ください。

    (2) 安定性及び反応性 燃焼性 : 炭素繊維は、消防法では不燃物に分類されています。マッチやガスバーナーの炎をあてても着火しません。但し、空気中、高温で(400℃以上)処理すると徐々に酸化減量します。温度が高い場合には赤熱することがあります。自然性はありません。
    爆発性 : なし。
    粉塵爆発性 : データなし
    反応性 : 強力な酸化剤によって酸化されますがそれ以外の薬品には安定です。

    (3)その他
    導電性: 炭素繊維は導電性を有し、フライや糸くずが電気系統の短絡の原因になることがあります。
    生体適合性: 炭素は生体適合性が良いとされており、炭素繊維、および炭素繊維複合材は人工生体材料にも使用されています。

取扱い上の注意点

  • (1) 毛羽・粉塵・フライの発生防止
    炭素繊維は細く、且つ、破断伸びが小さいので、取扱い時に折れて毛羽となったり、粉塵やフライとなって大気中に飛散しやすくなります。これらは炭素繊維の使用によって起きる障害の原因になることがあります。

    短繊維状の炭素繊維製品は飛散しやすいので、容器から取り出したり、加工する際に局所排気を行うことを推奨します。連続繊維を切断してチョップドファイバーにするとき、さらに粉砕してミルドファイバーにするときも同様です。

    連続繊維状の炭素繊維をボビンから引き出して使用する際、ガイド等で強くこすると毛羽を生じ、フライとなります。糸の張力を下げ、使用ガイド数を減らしたり、回転ガイドを用いることが、粉塵・フライの発生防止に有効です。織物、組物、編物、プリフォーム、パンチフェルト等の製造時にも、炭素繊維を強くしごいたり、こすったりするので毛羽・粉塵・フライが発生します。局所排気すること、清掃を頻繁に行うことを推奨します。

    (2) 人体への障害対策
    ・皮膚
    炭素繊維は弾性率が高く、繊維径が細いので、皮膚や粘膜に付着すると、刺激を与え、かゆみ・痛みを生じることがあります。皮膚の露出を減らし、局所排気を行うなど防塵への注意が必要です。皮膚に付着した場合は、こすらずにえ水か湯で洗い流してください。粘着カーペットクリーナーや荷造りテープを使って除去することも有効です。 予め皮膚に保護クリームを塗って作業すると効果があります。特に高弾性率繊維を扱う場合に有効です。

    ・目、喉
    めがね、マスクを装着して、粉塵やフライの付着、吸入を予防してください。目に異常を感じた場合は専門医を受診してください。


    (3) 電気設備の障害・感電
    浮遊している粉塵やフライが開閉器や電子制御機器の中に入り込むと短絡による事故を起こすことがあります。機器内には清浄空気を吹き込み(パージング)、結線部分には絶縁措置(塗料、テープによる保護)をすることを推奨します。  粉塵やフライが浮遊している作業場に電子機器、パソコンを持ち込むときは、プラスチックのケースに収納し、ケース内に清浄空気を吹き込むことを推奨します。

    電源プラグに糸くずが付着していると、コンセントに差し込んだとき感電したり、短絡により怪我をすることがあります。特に電圧が高い場合は注意が必要です。

    (4) 廃棄上の注意
    炭素繊維や炭素繊維複合材料の廃棄物は必ず一般ごみと区分し、産業廃棄物「廃プラスチック」として取り扱ってください。 地方自治体の条例がある場合は取り決めに従ってください。 一般の焼却炉で焼却処理はしないでください。炭素繊維は一般の焼却炉では完全には燃えきらず、フライとなって電気集塵機の短絡事故の原因となることがあります。

    (5).輸送上の注意
    炭素繊維製品がこぼれないように厳重に梱包するとともに、輸送時の梱包の破損防止に注意してください。チョップドファイバーやミルドファイバーなどの短繊維の場合、内容物がこぼれたら掃き集めて回収し、産業廃棄物として処理してください。散水すると短繊維を飛散させずに回収できます。

化学物質の有害性情報入手データベース例